日々のすきまから 阿部夏希展
「初めて見たメゾチントの作品は大学で版画の制作をしてえいった先輩の作品で、暗闇のような黒の中に浮かび上がる図像の美しさに惹かれました。とても小さな灯りのようだと思った記憶があります。それから、自分でもやってみたいと思い、試行錯誤を続けながら今に至ります。
描きたいものはその時々によって変化してきました。始めたばかりの頃は、メゾチントの黒を夜の闇や深海に見立て、空想の世界や夜の情景を描いていました。それから興味は日常へと移り、最近は普段の生活の中で妙に惹かれた物体や光景をモチーフに制作しています。その根底には、日々を過ごすなかで、何かを見て、何かを感じたときのことを忘れたくない気持ちがあるような気がしています。
今でも刷り上がりを完璧に予想することは難しいのですが、どんなふうに刷り上がるか想像する時間を楽しみながら制作しています。自分が版の上に刻み込んだものが刷った瞬間に全て現れることに面白さを感じているので、こうやったらどうなるかな、と、実験するように作っていきたいと思っています。」 安部夏希
阿部さんの準大賞受賞作品「観測点」は、時の移ろいを感じさせる4つの連作であった。メゾチントという銅版技法は、様々な表情の奥深い黒が魅力的で観る者を惹きつける。意識を素通りしてしまいそうな様々なモチーフであるが、優しい眼差しで日常化から切り取られると魅力を発揮し、特別なものになる。机上のオブジェ作品と併せて、いとおしく懐かしくもあっる風景やモノ、動植物たちにじっくりと向き合っていただきたい。
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北上市立 利根山光人記念美術館
北上市立花15-153-2
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